過重労働による健康障害防止対策について(その2)

(3)労働時間の算定

 過重労働対策において労働時間を考える場合に重要なことは、個々の労働者が睡眠時間を確保して健康を保持することができかとういことです。よって、労働のために費やす時間が労働者の日常生活に与える影響を評価することが肝心です。時間外の労働時間としては、平日の残業だけではなく、休日出勤の時間や会社にいなくとも待機によって拘束されている時間なども考慮に入れなければなりません。

(4)長時間にわたる時間外・休日労働等を行った労働者に対する面接指導

 労働安全衛生法第66条の8は、事業者の義務として長時間労働等に対する医師による面接指導(以下「面接指導」といいます)を行わなければならないと規定しています。また、労災認定された自殺事案をみると長時間労働であった者が多いことから、面接指導の実施の際には、うつ病等のストレスが関係する精神疾患等の発症を予防するためにメンタルヘルス面にも配慮することとされています。

 なお、労働安全衛生法に定められている面接指導は、長時間労働やストレスを背景とする労働者の脳・心臓疾患やメンタルヘルス不調を未然に防止することを目的としており、医師が面接指導において対象労働者に指導を行うだけではなく、事業者が就業上の措置を適切に講じることができるよう、事業者に対して医学的な見地から意見を述べることが想定されています。

 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」により改正された労働安全衛生法では、長時間労働やメンタルヘルス不調などにより、健康リスクが高い状況にある労働者を見逃さないため、医師による面接指導が確実に実施されるようにし、労働者の観光管理が強化されました。

 その面接指導が確実に実施されるされるためには、労働者の労働時間の状況の把握が大切であり、その方法として、タイムカードによる記録、パソコン等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録等の客観的な方法により行わなければならないこととなりました。

 また、産業医を選任した事業場は、その事業場における産業医の業務の具体的な内容、産業医に対する健康相談の申し出の方法及び産業医による労働者の心身の状態に関する情報の取り扱い方法を、労働者に周知しなければならないことされました。

 その方法として、次のものがあげられています。

①常時各作業場の見やすい場所に掲示し、または備え付けること

②書面を労働者に交付すること

③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものに記録し、かつ、書く作業場に労働者が該当記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

1)対象者の選定等

 事業場では、労働者ごとに労働時間を正しく把握する必要があるとともに、時間外・休日労働時間(休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた分の時間をいう。以下同じ)が1月当たり80時間を超えた労働者に対し、速やかに超えた時間に関する情報を通知しなければなりません。

 また、疲労の蓄積があるかどうかは、客観的な判定方法が確立しておらず、労働者本人の自覚に依存することになります。よって、対象者を選定する基準は、事実上、「労働者が面接指導の受診を申し出ること」といえます。そこで、事業場においては、自己申告しやすい環境をつくることが求められます。さらに、労働者の申告に頼るのではなく、職場上司による観察や、産業医による申出の勧奨によって面接指導の対象者を適切に把握することが重要となります。


①時間外・休日労働時間が1月当たり80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる労働者であって、申告を行ったものについては、医師による面接指導を確実に実施しなければならないこと

②時間外・休日労働時間が1月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められ、又は健康の不安をを有している労働者であって、申出を行ったもの(①に該当する労働者を除く)については、医師による面接指導及び面接指導に準じる措置(以下「面接指導等」という)を実施するよう努めなければならないこと

③時間外・休日労働時間が1月当たり100時間を超える労働者(①に該当する労働者を除く)又は時間外・休日労働時間が2月ないし6月の平均で1月当たり80時間を超える労働者については、医師による面接指導を実施するよう努めなければならないこと

④時間外・休日労働時間が1月当たり45時間を超える労働者で、健康への配慮が必要と認めた者については、面接指導等の措置を講じることが望ましいこと

⇒ 面接指導等の実施後は次の措置等を講じることとされています。

①上記①の医師による面接指導を実施した場合は、その結果に基づき、労働者の健康を保持するために必要な措置について、遅滞なく医師から意見聴取します。また、その意見を勘案し、必要があると認めるときは、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少など適切な事後措置を講ずる

②上記②から④までの面接指導等を実施した場合は、①に準じた措置を講ずるよう努める

③面接指導等により労働者のメンタルヘルス不調が把握された場合は、面接指導を行った医師、産業医等の助言を得ながら必要に応じ精神科医等と連携を図りつつ対応する

2)過重労働者からの申し出の勧奨

 産業医は、前記の1)の労働者に対して申し出を勧奨することができることとされています。事業者は、産業医が勧奨できるよう、産業医から求めがあれば、該当労働者に関する作業環境、労働時間、深夜業の回数及び時間数等の情報を提供しなければなりません。

 また、勧奨の方法として、産業医が健康診断の結果等から脳・心臓疾患の発症リスクが長時間労働により高まると判断される労働者に対して、労働安全衛生規則第52条の2の面接指導の対象となる要件に該当した場合に申し出を行うことををあらかじめ勧奨しておくことや、家族や周囲の者からの相談・情報をもとに産業医が該当労働者に対して申し出の勧奨を行うことも考えられます。

3)面接指導の内容

 面接指導を担当する医師は、労働者の業務内容、労働時間、疲労の状況を確認した上で、前回までの面接指導や健康診断の記録を調査し、必要に応じて、疲労やメンタルヘルスについての調査、診察、臨床検査を追加して、脳・心臓疾患や精神疾患のリスクを正確に評価することが求められます。

(5)過重労働の原因の調査と対策

 過重労働の予防のためには、過重労働によって健康に障害を受けた労働者に対する適切な措置を充実させるだけではなく、その労働者がなぜ過重な労働をするようになったかについての原因を調査することが重要です。

 過重労働の原因には、作業内容、作業方法、作業量、職場の人間関係など職場要因と、生活習慣、基礎疾患、家族環境などの個人要因が挙げられます。

 そこで、それらの原因を調査して過重労働の原因のうち職場要因を抽出し、その要因に対する有効な対策を検討します。

 有効な対策としては、業務の負担を軽減し、疲労回復のための十分な睡眠時間及び休息時間の確保をすることです。事業場においては、まず、業務の見直しや効率化により、長時間にわたる労働や過重感のある業務による負担を軽減することが求められます。次に、年次有給休暇の計画的な取得の促進、良質な睡眠を取るための工夫に関する助言、通勤時間の短縮などを考慮します。

 さらに、長時間労働により健康影響が増すような有害環境を改善する対策、労働以外の有害要因を改善する対策などが考えられます。

(6)衛生委員会での報告

 衛生委員会では、面接指導の受診状況について概要を報告し、面接指導が徹底されるよう対応を調査審議します。具体的には、面接指導等の実施方法及び実施体制の評価、労働者の申し出が適切に行われるための環境整備、面接指導等の申し出を行ったことで不利益な取扱いが行われることのないようにするための対策、面接指導に準ずる措置を実施する対象者の基準の策定、これらの対策の労働者への周知などについて調査審議することが望ましいとされています。