安全衛生教育(その2)

 さて、安全衛生教育はどのように進めていけばいいのでしょうか?

(1)目標を立てる

 実際に行われている安全衛生教育には様々なものがありますが、その目的を明確にしてから進めていかなくてはなりません。そのためには安全衛生教育に何を求めるのかを正しく認識し、目標を立てていくことから考えていきます。

 安全衛生教育の効果を5段階で示すと次のようになります。

■レベル①「実施」

 安全衛生教育を実施するというスタート段階。安全衛生教育を実施したということで、法違反にはならないが、実質的効果は期待できません。

■レベル②「知識」

 受講することにより、労働衛生に対する知識が深まる段階。レベル①の「習っている」から「知っている」にステップアップします。受講者の意識付け、動機付けに結び付けば成功といえるでしょう。

■レベル③「技能」

 ここでは、頭の中で理解したことを、さらに訓練まで発展させます。例えば、「防毒マスク」の正しい着用方法を説明するだけでは不十分で、実際に受講者に着用させ、着用感を経験するとともに、フィッテングチェックを行うことが有効となります。

■レベル④「実行」

 この段階では、訓練から実行へ移行となります。教育内容を実際の行動に移すということは容易ではありませんが、職場の管理監督者が意識的に日常的な指導を行うのが重要です。

■レベル⑤「定着」

 レベル④で実行に移っても、労働衛生行動は継続するとは限りません。フォローアップ教育と管理監督者の協力により、安全衛生文化として定着させることが重要です。

(2)教育計画の作成

 教育計画の作成に当たっては、5W1Hの手法を活用することが有効です。

ア)Who(誰が、あるいは誰を)

 対象となる受講者を決める場合、教育内容は対象者により大きく異なるため、受講者層が混在しないように注意する必要があります。また、講師選びも非常に重要です。外部の講師に委託する場合は、事業場における労働衛生ニーズを含め、事前に十分な打ち合わせを行いましょう。

イ)What(何を)

 対象者に何を教えるかという、カリキュラムを作成します。カリキュラムの作成にあたっては、まず事業場の労働衛生ニーズなどを正確に把握し、そのニーズに適切に対応することが必要です。

ウ)Why(なぜ)

 カリキュラムの内容を決める際はには、その教育内容が事業場にとって、また、受講者にとってなぜ必要なのかを明確にしなければなりません。

エ)When(いつ)

 教育を行う時間帯及び教育時間を決めます。事業場の業務による制約もあるため、皆が参加しやすい時間帯、日にちを設定しましょう。

オ)Where(どこで)

 教育の会場を検討するものです。騒音が少なく、職場から多少離れた場所が望ましいでしょう。

カ)How(どのように)

 教育手法を決めるものです。教育内容、受講者層によって効果的な手法を検討する必要があります。特に、一方的な講義形式よりもグループ討議や演習形式を取り入れた受講者参加型の方が教育効果が大きいと認められています。

(3)教育の進め方

 教育の手法は多くのものがありますが、重要なことはそのひとつを取り上げるのではなく、これらのそれぞれの特性を活用しながら組み合わせることにより最大の効果を得ることができるようにしましょう。主な教育手法をご紹介します。

①講義法:一度に大勢の学習者に内容を伝達する方法

 メリット:学習者の反応を見ながら学習指導を展開することができます。

 デメリット:学習者が受け身になってしまうことがあります。

②討議法:特定のテーマについて討議する方法

 メリット:学習者が積極的に学習活動に参加でき相互の発言により思考を深めることができます。

 デメリット:進行が逸脱したり、時間の浪費を招いてしまうことがあります。

③役割演技法:特定の役割を演じる方法

 メリット:対人関係を実際に近い状態で学習することができ、相手の気持ちを洞察する力を養うことができます。

 デメリット:進行が停滞したり、個人批判に陥ったりすることがあります。

④事例研究法:特定の事例について深く学ぶ方法

 メリット:具体的な事例を素材として積極的に学習することができます。

 デメリット:事例作成に時間がかかり、リーダー7に指導技術が要求されます。

⑤視聴覚的方法:ビデオ等の機材を活用して学ぶ方法

 メリット:現場に行かなくても実物に近い状態を見ることができ、学習者に強い印象を与えることができます。

 デメリット:設備に経費がかかり、準備に時間を要することがあります。

(4)教育結果の評価

 教育は実施したらそれで終わりではありません。教育が狙いどおり成果をあげることができたかを検討して、その結果を次の教育計画に反映させるために、評価をしなければなりません。そのため、個人の成績だけを評価の対象とするのではなく、計画そのものや実施の方法などが適切であったかどうかを評価することも重要です。