健康診断は検査をして終わりではなく、その結果を活用してこそ、というのは言うまでもありません。
(1)健康診断結果の通知
事業者は、労働安全衛生法第66条の6に基づき、健康診断結果は、受診後遅滞なく、受診した労働者に通知しなければなりません。健康診断結果を労働者に通知する趣旨は、「労働者が自ら健康管理ができるようにすること」なので、総合判定結果だけではなく、各検査の項目ごとの結果も通知する必要があります。また、特殊健康診断の結果に関しても受診者に通知するよう定められています。
(2)健康診断結果の保存
事業者は、労働安全衛生法第66条の3及び労働安全衛生規則第51条(特殊健康診断については各規則の規定)に基づき、健康診断結果に基づいて健康診断結果票を作成し保存しなければなりません。保存期間は一部の健康診断を除き5年と定められています。
保存期間 |
健康診断の種類 |
5年 |
1.一般健康診断 2.特殊健康診断のうち ①有機溶剤 ②鉛 ③四アルキル鉛 ④特定化学物質(特別管理物質を除く) ⑤高気圧作業 |
7年 |
じん肺健康診断 |
30年 |
1.特定化学物質健康診断のうち特別管理物質にかかるもの 2.電離放射線 3.除染等電離放射線 |
常時当該業務に従事しないこととなった日から40年 |
石綿 |
(3)健康診断結果の報告
1)健康診断結果の集計
健康診断結果については、集団の情報を集計・解析することによって、各種の調査や健康教育などの目的で利用することができます。全国平均との比較を行うことにより事業場の特徴を明らかにしたり、部署ごとの特徴をとらえ、業務による健康影響を評価したり、健康プログラムの作成に役立てたりするなどに利用することができます。
2)衛生委員会への報告
健康診断結果については、衛生委員会における調査審議事項として委員に提示して、労働衛生管理上の課題の抽出や改善案の検討のために活用することが望ましいでしょう。もちろん、個人情報の取り扱いについては慎重を要します。
3)労働基準監督署への報告等
一般健康診断と特定業務従事者の健康診断、及び歯科医師による健康診断(いづれも定期のものに限ります)を実施した結果は、労働安全衛生規則第52条に基づいて、産業医が押印又は署名した健康診断結果報告書を作成し、所轄労働基準監督署長に遅滞なく提出しなければなりません。この報告書には、健康診断の対象者数と有所見者数を記載します。なお、この報告の義務は常時使用する労働者数が50人以上の事業場が対象となっています。
(4)就業上の措置
1)就業区分の決定
「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成8年10月1日付け公示第1号、最終改正:平成29年4月14日付け公示第9号)において、下記の表に示すように就業上の措置の内容が3つに大別されています。就業区分の判定は、産業医等の意見聴取により行います。
就業区分 |
就業上の措置の内容 |
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区分 |
内容 |
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通常勤務 |
通常の勤務でもよいもの |
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就業制限 |
勤務に制限を加える必要のあるもの |
勤務による負荷を軽減するため、労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、労働負荷の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少、昼間勤務への転換等の措置を講じる |
要休業 |
勤務を休む必要のあるもの |
療養のため、休暇、休職等により一定期間勤務させない措置を講じる |
2)職場や作業の評価と改善
就業上の措置の内容は、就業制限という人事管理による方法だけでなく、作業環境測定や作業分析の実施、作業方法の変更や改善が必要かどうかなどについて判断することが含まれます。
3)労働者の就業制限
就業制限の内容については、産業医等が作業環境や作業方法について十分に理解した上で意見を述べることができるように、衛生管理者が説明をしたり、管理者の意見を聞く機会を設けるなどして、できるだけ多くの具体的な選択肢が検討できるように配慮する必要があります。なぜなら、労働者ひとりずつ異なり、また、職場や作業の内容も常に変化するものであるため、就業制限の内容は多様な組み合わせになるからです。
実際に就業上の措置の内容を決定する際には、ライン管理職、人事・労務担当者、労働者、産業保健専門職が集まって相談することが望ましいですが、最終的には、事業者が決定することになります。
なお、就業上の措置は、労働者の健康の確保に必要な範囲を超えて、不利益な取り扱いを行うことがあってはならないことは言うまでもありません。
(5)保健指導
1)生活習慣等の改善
労働安全衛生法第66条の7に基づき、事業者は、有所見者を対象として医師又は保健師による保健指導を実施するよう努めなければなりません。この指導には、検査データに有所見があり、その改善のために必要な内容を指導する場合と、検査データには有所見を認めないが、栄養摂取、運動、余暇の過ごし方などに関する生活習慣や職場における行動に改善すべき課題があり、その指導をするものがあります。これらの習慣や行動を改善するための指導は、労働者ごとに意欲を促すように配慮して行いましょう。
2)医療機関への紹介
保健指導には、医療機関への紹介が含まれます。医療機関への紹介が必要かどうかは医師が判断しなければなりません。この指導では、本人が納得の上、受診をし、医療機関でサービスが円滑に受けられるようにサポートすることが大切です。多忙などを理由になかなか受診していない者に対しては、受診しないことで病気が悪化した場合、本人、家族、職場にとってどのような影響や不利益を与えるかなどについて認識させるとともに、就業しながら受診できるような具体的な受診方法について助言することが重要です。なお、受診の理由が何なのか、結果として期待することは何なのかを明確にするために、産業医による紹介状(医療情報提供書)を持参させることが望ましいでしょう。
3)治療継続
労働者によっては、自己判断で治療を中断している場合もあります。保健指導の後も必要に応じて定期的に経過を確認し、治療の継続を進めることによって、健康状態を確保していただくことが望ましいでしょう。
(6)就業上の措置と保健指導のバランス
医師や保健師等は健康診断結果に基づいて、労働者に保健指導を行います。また、産業医等の医師は、事業者に対して就業上の措置に関する助言を行います。産業医等の医師がこれらの措置の実施状況を継続的に観察し、適正配置が双方の努力により達成されるように指導を継続していくことが望ましいでしょう。
なお、平成28年に厚生労働省が「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」を公表しています。近年の診断技術や治療方法の進歩により、かつては「不治の病」とされていた病気においても生存率が向上し「長く付き合う病気」に変化しつつあります。労働者が病気になったからと言って、すぐに離職しなければならないという状況が必ずしも当てはまらくなってきているということかと思います。
(7)健康診断の評価と改善
どんな活動でも、評価が行わなければ持続的な改善を進めることはできません。健康診断の評価指標には、次のようなものがあります。これらの評価結果を利用して健康診断について継続的に改善を行っていくことが望ましいでしょう。
①健康診断の実施状況の評価
健康診断の受診率、受診者の待ち時間、精密検査の受診率などが指標になります。
②健康診断を委託した機関の評価
健康診断に外部の労働衛生機関を利用した場合にはその評価を行います。あらかじめ打ち合わせた内容が実施されたか、例年と比べて再検率や精検率はどうか、健康診断の通知に要する期間などが指標になります。
③受診者による健康診断の評価
受診者から直接意見を聴取することも有効です。