ストレスチェック制度

 平成26年の改正労働安全衛生法により、新たに設けられたストレスチェック制度の実施については、「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成27年4月15日付け指針公示第1号、改正:平成30年8月22日指針公示第3号、以下「ストレスチェック指針」という)に詳細が規定されています。さらに、厚生労働省により、「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」も公表されています。

 ストレスチェック制度は、実施前の準備からストレスチェック、面接指導の実施、集団的な分析による職場環境の改善までを行う仕組みです。

(1)衛生委員会等における調査審議

 制度の導入にあたっては、事業者はストレスチェック制度に関する基本方針を表明した上で、ストレスチェック制度の実施体制、実施方法など指針に示した事項を含め、事業者側の代表、衛生管理者、産業医、労働者から組織される衛生委員会等で調査審議を行います。また、事業者は、調査審議の結果を踏まえて、ストレスチェック制度に関する規定を定め、それを労働者に周知します。

(2)実施体制の整備

 事業者は、「ストレスチェック制度担当者」を指名し、実施計画の策定、実施者や委託先業者等との連絡調整、計画に基づく実施の管理等の実務を行わせます。この制度担当者には、衛生管理者又は事業場内メンタルヘルス推進担当者を指名することが望ましいとされています。

 「実施者」は、医師、保健師、厚生労働大臣が定める研修を修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士もしくは公認心理師がなります。

 また、検査を受ける労働者について、人事を決定する権限又は人事について一定の判断を行う権限を持つ監督的地位にある者は、実施実務に従事することはできず、医師等であっても実施者にはなれません。

(3)実施方法

 ストレスチェックは、調査票を用いて、次の3つの領域に関する項目により、検査を行い、労働者のストレスの程度を点数化して評価します。その評価結果を踏まえて高ストレス者を選定し、医師による面接指導の要否を確認します。

①仕事のストレス要因:職場における当該労働者の心理的な負担の原因

②心身のストレス要因:心理的な負担による心身の自覚症状

③周囲のサポート:職場における他の労働者による当該労働者への支援

 実際に用いる調査票は、上記の①~③の3つの領域に関する項目が含まれているものであれば、実施者の意見及び衛生委員会等での調査審議を踏まえて、事業者の判断により選択することができます。なお、調査票としては、「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」を用いることが望ましいとされています。また、質問項目23項目とした簡易型の調査票もあります。

 対象者は、一般定期健康診断と同様で、実施の頻度としては、1年以内ごとに1回、定期に実施します。

 なお、以下のことは、必ず実施者が行わなければなりません。

・調査票の選定並びにストレスの程度の評価方法、及び高ストレス者の選定基準の決定にについて事業者に対して専門的な見地から意見を述べること

・結果に基づき、医師による面接指導を受ける必要があるか否かを確認すること

(4)ストレスチェック実施後の対応

ア)結果の通知

 ストレスチェックの結果は、実施者から本人に直接通知し、結果を本人以外が把握できない方法によらなければなりません。通知する内容は、個人ごとのストレスの特徴や傾向を数値、図表で示したもの(調査票の3つ領域ごとの点数を含むもの)、高ストレスに該当するかどうかを示した結果、面接指導の要否の3点を必ず含めます。このほかに、労働者がセルフケアを行う際のアドバイス、面接指導の申し出の方法、その他の相談窓口なども通知することが望まれます。

イ)同意の取得

 ストレスチェックの結果は、事業者には提供されません。事業者に結果を提供する場合には、必ず本人の同意が必要となります。同意の取得は、本人に結果を提供した後に行わなければならず、検査の実施前や実施時に同意を取得することは認められません。ただし、本人から面接指導の申し出があった場合は、結果の提供に本人が同意したものとみなし、改めて同意を取得する必要はありません。

ウ)面接指導の申し出の勧奨

 ストレスチェックの結果、ストレスの程度が高く、医師による面接指導を受ける必要があると判断された者は、できるだけ申し出を行い、面接指導を受けることが望まれます。申し出を行わない者もいることも考えられるため、医師等の実施者から、面接指導の申し出を行うよう勧奨します。産業医による日常的な相談対応や、産業医等と連携しつつ、保健師や心理職が相談対応を行う体制を整備し、その中で必要に応じて本人に申し出を勧め、医師による面接指導につなげましょう。

エ)結果の記録・保存

 ストレスチェック結果は、医師等の実施者が記録を5年間保存します。実施者による保存が困難な場合は、事業者が他の実施実務従事者を指名して、保存させることもできます。保存が適切に行われるよう、保存場所の指定、保存期間の設定及びセキュリティーの確保等必要な措置を講じなければなりません。また、本人の同意により事業者に提供された結果については、事業者に5年間の保存期間が義務付けられています。

オ)面接指導と業務上の措置

 面接指導の申し出があった者に対しては、医師、できれば事業場の状況を把握している産業医が面接指導を実施します。面接指導の結果、面接指導を実施した医師から、就業上の措置の必要性有無及び講ずべき措置の内容やその他の必要な措置に関する意見を聞きます。そして、必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じ、メンタルヘルス不調の予防に努めます。

カ)集団ごとの集計・分析の実施

 ストレスチェックを通じて労働者のメンタルヘルス不調を防止するためには、本人に結果を通知して、セルフケアや必要な場合は医師による面接指導につなげるだけではなく、ストレスの要因となり得る職場環境の改善を図っていくことも極めて重要です。このため、事業者は、実施者にストレスチェック結果を一定規模の集団ごとに集計・分析させるとともに、その結果を勘案し、その集団の労働者の実情を考慮して、職場環境の改善により心理的負担の軽減に努めなければなりません。なお、集団ごとの集計・分析や職場環境の改善は努力義務ではありますが、やはり実施することが望ましいでしょう。

キ)不利益取扱いの防止とプライバシーの保護

 労働者の心の健康に関する情報は、特に取扱いに注意が必要です。このため、事業者は、ストレスチェック制度の実施に当たっては、ストレスチェック結果のみを理由としたり、労働者が受験しないことや面接指導結果を理由とした不利益な取扱いを行ってはなりません。