温度感覚(その人にとって、「ちょうどいい」と思う温度のこと)を左右する環境条件は、「気温」「湿度」「気流」「輻射熱(放射熱)」の4つの要素によって決まります。
健康障害が発生するかどうかは、これらに加えて、作業強度、作業時間、服装、保護具、暑熱順化(暑さに徐々に慣れること)、水分・塩分の摂取量、皮下脂肪量、体調・持病などが関係します。
熱中症は、高温・多湿の風のない炎天下の環境で、作業の初日や急に暑くなった日に多発します。一方、低体温症は、低温で風の強い日に多発します。凍傷は、低温な環境で、外気に露出した部位や水に濡れた四肢の末梢などに局所的に生じやすいものです。
労働安全衛生規則では、暑熱、寒冷または多湿の職場には、半月以内ごとに1回、定期に、気温、湿度、輻射熱の測定を義務付けています(輻射熱については、一部の屋内作業場)。
事務所衛生基準規則では、中央管理方式の空気調和設備を設けている事務室に、2か月以内ごとに1回、定期に、温度(室温、外気温)、湿度、一酸化炭素および二酸化炭素の含有率の測定を義務付けています。
また、事務室の気温が10℃以下の場合は、暖房する等、適当な温度調節の措置を講じなければなりません。空気調和設備を設けている場合は、室の気温が17℃~28℃、相対湿度が40~70%に調整するよう求められています。
温熱環境を空調(エアコン)により調節する際は、設備本体や部屋の壁のコントローラーにより設定する温度ではなく、作業場所の温度を測定して調節します。空調の気流は、作業者にまんべんなく届き、ゆっくり変化するのが理想です。冷気が下層にとどまり、暖気が部屋の上層にとどまらないように、サーキュレーター等で室内の空気の対流を促しましょう。
暑熱な場所は、身体の体温調節機能に負担がかからないよう、次のような工夫を等を考えるとよいでしょう。
・室内で蒸気や熱気が発生する場合は、その事前上昇を利用してフードで誘導して上方から排気することを検討する
・すぐに使わない電気製品は電源を切ることで発散源を減らす
・屋外や大きな工場など広い空間では、作業者がいる場所に冷風を送るスポットクーラーや外気を取り入れて対流させる大型換気扇を利用する
・炎天下や西日が差し込む室内、道路のアスファルト、グラウンドの土などは、赤外線の輻射熱により表面温度が上昇するので、休憩場所は、風通しのよい日陰に確保する
以上のように、気温、温度、気流、輻射熱の温熱要素で、温熱環境が決まってきます。この温熱条件を評価するためには、要素を一つずつ測定することが一般的ですが、さらにそれを総合して、一つの尺度WBGT(Wet Bulb Globe Temperature:黒球温度(単位:℃)で温熱条件を表すことができます。
WBGTは、労働環境において作業者が受ける暑熱環境による熱ストレスの評価を簡便な指標です。暑熱環境を評価する場合には、気温に加え、湿度、気流、輻射熱を考慮して総合的に評価する必要があり、WBGTはこれらの基本的暑熱諸要素を総合したものとなっています。WBGTの値は、次の式で算出されます。
・屋外で太陽照射がある場合:
WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度
・屋内の場合および屋外で太陽照射がない場合:
WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.3×黒球温度
熱中症については、「職場における熱中症の予防について」および「熱中症の予防対策におけるWBGTの活用について」において、熱中症リスク指標として、作業負荷等に応じたWBGT基準値が示されており、厚生労働省ではWBGTの指標を用いた暑熱環境の評価をするべきであるとしています。